福岡を拠点に、ITの仕事を軸とした障がい者の就労支援に取り組む株式会社カムラック。
 就労継続支援A型・B型、就労移行支援を段階的に組み合わせ、企業と並走しながら利用者の“できる”を仕事につなげてきました。

※就労継続支援A型:雇用契約に基づく就労の機会を提供する施設
 ※就労継続支援B型:就労の機会や生産活動の機会を提供する施設
 ※就労移行支援:一般企業への就職を希望する人に対する訓練を行う施設

本稿では、代表取締役・賀村 研(かむら けん)さんに、取り組みの背景、現場の変化、そして福祉×ITの先に描く未来を伺いました。
 カムラックはIT業務を中心とした就労の場づくりを進め、企業の受託業務(システム・Web・データ入力・テスト・デザイン等)を切り分け、利用者のスキル段階に応じて実務を担ってきました。

カムラックの取り組み

その際、カムラックが特にこだわってきたのが、当時“通うだけの場”が多く見られたと感じていたA型を“働く場”として成立させることでした。
 その実現のため、平成25年に創業した当初から「8時間の就労」と「社会保険の適用」 に取り組み、A型事業所としては当時珍しいフルタイム勤務の運営モデルを形にしています。

 「週30時間以上の勤務を前提にしたA型を当時実現しました。全員に社会保険が付く運営からスタートしたことは、周りから“日本初では?”と驚きの声をいただきました。」——賀村さん

こうした取り組みは、
 “A型=短時間で通う場所”という従来のイメージを変え、利用者が働く手応えや経験を積める環境を整えることを目指したものです。
 この理念のもと、誰もがその人らしく働ける社会の実現を視野に、カムラックは取り組みの幅を広げています。

福祉×ITに取り組んだ「きっかけ」

左:賀村さん、右:株式会社else if代表取締役社長 髙森啓二さん
左:賀村さん、右:株式会社else if代表取締役社長 髙森啓二さん

IT分野ではプロジェクト単位で働くことも多く、環境や役割が一定期間ごとに変わりやすいという特徴があります。賀村さんは、そうした働き方の中で、経験を重ねた人が長く力を発揮し続けられる場を広げたいという思いから、ITの業務設計や進行管理の手法を福祉の現場へ応用することを構想しました。
 さらに、その構想をより具体的な形に進めるきっかけとなったのが、IT企業(else if)を経営する髙森さんとの出会いでした。仕事やプロジェクトの進め方に精通した髙森さんと意見を交わす中で、「ITの仕事を細分化し、福祉の現場に合わせて設計すれば、障がいのある方も重要な工程を担える」という確かな手応えが生まれたと言います。
 髙森さんが持つエンジニアリングの視点と、賀村さんが抱いていた「多様な人が長く働ける場をつくりたい」という想いが重なったことで、“福祉×IT”という新しいモデルが現実的なものへと動き始めました

ITがもたらした“働き方”の変化

企業の仕事を担うことは、利用者の自己肯定感を大きく高めました。市役所サイトやチャットツール企業、大手小売のオンライン販売サイトのテストなど、家族にも説明しやすい仕事が増えることで、施設見学者や親御さんの見方にも変化が生まれています。

「見学者の“すごい”という反応が自己肯定感を押し上げる。やがて“障がいがあるのに”ではなく、“仕事としてすごい”と言われる段階に移ります」——賀村さん

実際に業務に携わることで、「自分の仕事が誰かの役に立っている」という手応えを感じやすくなり、就労への意欲も高まっています。

利用者に関するエピソード

パソコンを使って仕事をする利用者の方々
パソコンを使って仕事をする利用者の方々

●「支える側」になる経験
 平成28年の熊本地震後、被災地の産品をオンライン販売し、利益を義援金として寄付。支えられる側だった利用者が“支える側”の体験を積むことで、“自分にもできることがある”と実感できました。

●利用者の変化が次の人の力に
 A型で働く中で自信をつけた利用者が、カウンセラーとして独立した例があります。
 その姿を見たほかの利用者も「自分も前に進んでみたい」と意欲が湧くようになり、良い循環が生まれています。

賀村さんが見据える未来

「これまでも、“インターネットが広まると仕事がなくなる”と言われ続けてきましたが、実際は仕事そのものが形を変え、私たちが1日にこなせる量は何十倍にも増えてきました。今でも、“AIが普及すれば仕事がなくなる”と言われていますが、実際には仕事量はもっと増えるだろうと思います。
 仕事の量が増えるだけで、働く場がなくなるわけではありません。むしろ、特性に合ったタスクをうまく分ければ、障がいのある方が健常者より高い成果を出す場面も確実に増えていくと思っています。
  AIで仕事は減るのではなく、やり方が変わる。だからこそ“できること”を見極め、誰もが活躍できる社会をつくっていきたいと考えています。」——賀村さん

『MetaLife』を表示するモニターの前に立つ賀村さん
『MetaLife』を表示するモニターの前に立つ賀村さん

(『MetaLife』は、インターネット上の仮想空間において、アバターを介してリアルタイムで会話やジェスチャーをすることができ、あたかも同じ空間にいるかのような感覚を味わうことができるコミュニケーションツールです。)

このまちと、これからも

「私は福岡出身ではありませんが、妻が福岡をとても愛していて、このまちで暮らし続けたいという想いがあります。子どももここで育っていく以上、事業を通じて福岡に貢献したい。大きなことではなくても、小さくても確かな貢献を積み重ねたい。それが私たちの気持ちです。『福岡100』の理念や、これから紡がれていく歴史に寄り添いながら、このまちの力になる取り組みを続けていきます。」—賀村さん

最後に

福祉×ITの取り組みは、日々の小さな挑戦と積み重ねが未来を切り開いていく力になります。
 できることを持ち寄り、支え合い、そっと背中を押し合う——その積み重ねが、明日の福岡をやさしく強くしてくれます。
 私たちは、挑戦する皆さんの歩みに寄り添い、「一緒に進んでいこう」という気持ちで、これからも応援していきます。

記事作成:福岡市福祉局障がい者部障がい企画課