視覚に障がいがある方にとって、日常生活や外出は多くの工夫が必要です。白杖を使った歩行、調理や家事の工夫、点字や情報機器を活用した情報の入手など、その支援を行っているのが「福岡市心身障がい福祉センター」の訓練部門です。専門の訓練士が、一人ひとりの状況や希望に寄り添い、生活の再構築をサポートしています。

視覚障がいといっても、その内容は多様です。全く光を感じない全盲の方もいれば、視野の一部だけが欠ける人、色や光の判別が難しい人もいます。進行がゆるやかな場合もあれば、ある日を境に突然視力を失うこともあります。そのとき、日常が大きく変わり、不安に直面する人は少なくありません。そんなときに頼りになるのが、訓練施設の存在です。

訓練士・後藤さん ~31年間の現場から

今回お話を伺ったのは、1994年からこの現場で活動し続けている訓練士・後藤さんです。長年にわたり、歩行、日常生活動作、点字や情報機器など幅広い訓練を行い、数多くの利用者に寄り添ってきました。

穏やかな表情の後藤さん
穏やかな表情の後藤さん

後藤さんは仕事のやりがいをこう話します。
 「ありがたいことに、日々やりがいを感じています。具体的にお伝えした内容をご本人が身に着けていかれる姿もそうですし、見えにくさから閉塞感をお感じになっていた方が、次第に自信を取り戻して社会参加していく、まるで中学生が大人になるくらいの変化を遂げる方もいらっしゃいます。私だけの力ではなく、ご本人の努力や周囲の力があっての変化ですが、そのお手伝いをできるのがとてもうれしいです。」

訓練は試行錯誤の連続です。うまくいかないこともありますが、挑戦を繰り返すなかで、できるようになったとき、喜びを一緒に分かち合えるのが、何よりも嬉しい瞬間です。

白杖を使って廊下をまっすぐ歩く練習で往復できた瞬間、情報機器を使いこなせた瞬間。小さな積み重ねが自信につながっていきます。

高齢の利用者も少なくありません。後藤さんは「ご本人が『まだ自分でやりたい、できるようになりたい』という気持ちを持っている限り、その思いを尊重したい」と話します。

「努力されている今の瞬間を大切にしたい。高齢だからと諦めるのではなく、挑戦を応援するのが私の役目だと思っています。」

また、訓練施設は技術指導だけではなく、生活に役立つ情報を数多く持っています。「まずは気軽に相談してほしい」と後藤さんは呼びかけます。

歩行訓練をする後藤さんと利用者さんの様子
歩行訓練をする後藤さんと利用者さんの様子

森山さんの挑戦 ~87歳、読書をもっと楽しみたい~

今回、取材に応じてくださった森山さんは87歳。助産師として長年医療に携わり、定年後も地域の診療所で働いてきました。しかし、ある日突然、信号の赤と青が区別できなくなり、眼底出血と緑内障を告げられました。

最初は弱視の状態で歩行訓練を受け、白杖を頼りに外出を続けていましたが、その後視力を失い、今は全盲となりました。現在は外出や調理をヘルパーに任せつつ、自分の力でできることを大切にしています。その一つが「読書」です。
 今は音声で本を楽しめる機器「センスプレイヤー」の訓練に取り組んでいます。
 「私は山が大好きで、山岳スリラーの本も好きなんです。平岩弓枝や葉室麟もよく読みます。」

新しい機械の操作方法を覚えるのは大変ですが、森山さんは訓練の復習を毎回しっかり行い、次の訓練につなげています。
「訓練の内容を理解して、次の週にできたとき。訓練士の先生から『よく覚えてこられましたね』と言っていただけると、励みになりますね」と笑顔で語ります。


センスプレイヤーの操作訓練をしている森山さん。花柄のブラウスが素敵。
センスプレイヤーの操作訓練をしている森山さん。花柄のブラウスが素敵。

チームで支えるリハビリ

福岡市心身障がい福祉センターの訓練部門には、後藤さんをはじめ4人の訓練士が在籍しています。歩行、点字、音声パソコンやスマホの訓練を担当し、互いに連携しながら利用者を支えています。

利用者にとって、訓練士は単なる指導者ではなく伴走者です。できたことを一緒に喜び、できないことに寄り添い、少しずつ「できること」を増やしていく。その積み重ねが自立へとつながっていきます。

訓練士の皆さん。穏やかな笑顔。
訓練士の皆さん。穏やかな笑顔。

まとめ  市民の皆さまへ

視覚障がい訓練は、特別な人のためのものではありません。高齢になって視力が低下した人、病気で突然見えなくなった人、誰にでも関わる可能性があります。訓練を受ければ、日常の工夫や道具の使い方を学び、再び趣味や外出を楽しめるようになります。
 この記事を取材した私自身も視覚に障がいがあり、過去に後藤さんの訓練を受けた一人です。その経験は今も生活の支えとなっています。
 困ったときは、一人で抱え込まずにぜひ福岡市心身障がい福祉センターに相談してみてください。

記事作成:福岡市福祉局障がい者部障がい者更生相談所